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 子供のころ、OMちゃんという聾唖者(ろうあしゃ)がおりました。

 OMちゃんといっても 40歳ほどのおばさんですが、近所のだれもがそう言っていました。

 必ず、必ず、木喰仏のような笑いを浮べながら、1日に1回、わが家の前を通ります。

 珍しく、その仏様のような笑顔がなかったある日、OMちゃんは幼い私に話しかけてきました。

 「あ、あー、あっ、あ~、あ゛ー、あぅー、あ゛ぃ~、あーぇあ゛~」

 何を言ってるのか、さっぱりわかりません。

 お天気のことでも言っているのかと思い、「あったかいね」と言ったのですが通じていないようです。

 当たり前ですが日本語で何を言っても通じません。

 仕方なく、私も「あ、あー、あ~」と言ったのですが。

 そしたら、急に怒り始めました。聞こえてないはずなのに。

 凄い見幕で「あ、あー、あっ、あ~、あ゛ー、あぅー、あ゛ぃ~、あーぇあ゛~」と前と同じようなことを言います。
 
 私には同じようにしか聞こえないのですが、明らかに怒っていることがわかります。

 馬鹿にしたつもりはないのですが、ごめんなさい、ごめなさいと言って逃げかえりました。

 私は今でも思い出します。OMちゃんは何を言いたかったのだろうと。

 今のように個別教育が進んでいれば、手話を習ったり、発声教育を受けたりして、言いたいことを言えたのだろうに。

 知的障害の私の姉は 60歳を過ぎてから自分の名前を書けるようになり、1000円以内の買い物もできるようになりました。

 丁寧に教えてくれる方がいれば、いくつになっても人は進歩するものです。たとえ障害者でも。

 今日の朝日新聞記事 【あ゛~】 を読みながら、幼き日のできごとを思い出しました。

 記事には「だみ声などの音を、濁点によって明示した」とありますが「幼き日のできごと」を経験した私には、もっともっと深い表現が隠されているような気がしてなりません。

 おそらく、「あ~」や「あ゛~」は人類共通の言語であり、もっとも表現力の多彩なもの、と言えるでしょう。

 なお、OMちゃんを覚えている方は既に片手で数えるほどしかいないと思いますが「OMちゃん」の表記で必ずわかると思います。


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8/24 朝日新聞 be 3面 【あ゛~】 表記上のすぐれた発明