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         ぷくぷく、お肉

 河出書房新社          赤瀬川原平他


 女性について書かれたものを読めばその作家の「情」がわかり、食べ物について書かれたものを読めばその作家の「性」がわかるといいます。「情」は人情、「性」は性分でありましょう。
 ですから、一見、小道具のようなストーリーとは関係なさそうな食べ物の描写でも作家諸氏は力を抜きません。むしろ、独特のうん蓄や変わった食べ方を披露することに生きがいを感じているのではないか、と思われる方のほうが多いような気がします。
 それらの諸氏の作品を食べ物の中でも最もご馳走のお肉を書いたものだけに集中して取り上げたものがこの本なのですから面白くないはずがありません。

 食べ物作家ナンバーワンの池波正太郎氏は例の煉瓦亭とともに目黒の「とんき」をすすめています。
 それが「とんきの他のトンカツはみんなダメですよ」とか「もう、ここへ来たら、バカバカしくて酒場やクラブへは行けませんよ」というのですから、ぜひ行ってみたくなりますよね。

 ミュージシャンの菊池成孔氏は広東ダックについて書いています。
 そして挑むような笑みを浮かべた店員の手によってすばらしい鴨がやってきた。クラシック・バレリーナの黒いレオタードを連想させる、美しい曲線。糖類と脂質が混じって焦げた香り。皮膚から放射する焼き上がりの熱。一羽丸々であるということの発散する濃厚なエロチシズム。涎が溢れる。
 瓶出し紹興酒を一杯だけ。あとは何杯もの冷たいジャスミン茶で、ひたすら鴨だけを食べた。キャラメリゼな皮の焼き具合も、筋肉に付いたほのかな香草の香りも、噛みしめる肉質の滋味も最高。一羽全部食べ終えてフーッといって天を仰ぐと店員が力強くウィンクした。力強い秋の到来だ。

 菊池成孔(なるよし)氏が何年かに1人しか現れない天才的ミュージシャンであることは知っていましたが、このエッセイを読んで天才的文章家でもあることもわかりました。


1 ぷくぷく、お肉
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コメント
この記事へのコメント
何人か名前の知っている作家さんもいます。

向田邦子さんや伊丹十三さんなど亡くなっている方も書いているということは随分古くから知られたお店なんですね。

すごい表現力で吸い込まれます。

食べるとき何も考えないでただ食べている者にとって関心するばかりです。
2015/10/12(Mon) 19:14 | URL | hana | 【編集
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