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 花の写真ニュース発行者の小野瀬壽君から「野性の思考」の著者市村一衛は身近な人ではないか、といわれました。

 同じく幼なじみで今も地元で音楽活動をしている新堀熙輔君から、住井すゑ作品集にでてくる市村一衛は親戚ではないか、とのメールがありました。

 ほかにも鉾田一高の同窓生や東京在住の茨城出身者からも、訊かれたことがあるので、お答えしましょう。


 わが故郷には第一子が男女にかかわらず家督相続するという古い形の惣領制という習わしがありました。

 明治の初めに生まれた私の祖母市村いち、は惣領娘なので家督相続をしました。

 いちの7年後に生まれた弟の市右衛門は長男でありながら慣例に従い分家しました。

 その市右衛門の長男が一衛。

 なので、一衛は私の父のいとこになります。

 名前はおそらく、いち、がつけたものと思うのですが。

 市村家には代々、一・市・いち、などの通字(とおしじ)があり、祖母のいち、はそれにすこぶる、こだわっていました。

 若くして亡くなった婿殿を立派な名前がありながら、かってに一男と呼んでいたほどですから。

 長男も一男、孫は市左衛門と名付けました。

 なので一衛もおそらく、いちの作品でありましょう。

 いちは不思議なことに風貌や性格が住井すゑさんにそっくりだったのですよ。

 私の母が私と妹たちをつれてあいさつのいくと、安だけつれてくれば、あとのよけいものはいらないから、といって困らせました。

 さて、一衛のことですが、巴村村長をやっていた父の市右衛門におおらかに育てられたせいか兵役を終えた青年期には常東農民運動に飛び込みました。

 常東農民運動は農地改革運動の先駆けだったのでけっきょくGHQの農地解放によってなし崩しにされますが、一時はかつての安保闘争のように全国的な広がりをみせたのです。

 その指導者の山口武秀とともに一衛は馬を連ねて各地の地主宅に乗り込みました。

 私が牛乳配達をしていた新堀正孝(巴農協組合長・鉾田一高同窓会長)さんの奥さんはその時の恐ろしかったようすを朝ご飯をごちそうしてくれながら話してくれました。

 また、母の実家の前島浩さんからも全く同じことをきいたことがあります。

 山口武秀さんに私は井川信彦さんに紹介され、数回会ったことがあります。

 上富田のし尿処理場反対運動の時でした。

 著書の「水戸天狗党物語」を読んだあとだったので胸がわくわくしたことを覚えています。

 さてさて、常東農民運動は終戦直後の一時のできごとですから、そのあとの一衛はなすすべもなく、マットレスなどの宣伝販売をしていました。

 そして、まもなく持ち上がった巨大プロジェクトが鹿島臨海工業地帯の建設です。

 これには常東地区の農地転用や漁業補償などが絶対条件ですから、おそらく資本(財界)はその交渉を摘便になしえる人物を探していたのでしょう。

 そこにぴったり当てはまったのが、かつての闘士でありながら生活に困っていた一衛でした。

 渡りに舟の思いだったのか、かつての敵や味方だった常東農魚民と資本側を仲介し、見事にフィクサーの役割を果たしたのです。

 資本側から先生先生と呼ばれ、財を成した一衛は老境にさしかかり、さすがに心苦しかったのでしょうか。

 小遣い銭を使って再び、農民運動のまねごとを始めます。

 それが、住井すゑ作品集第8巻373頁にでてくる農民道場と耳の会です。

 実際に空手などを行なう道場を隣接地に建て、古民家を移設した自宅を集会所に開放して、地元の方々の便宜を図っていました。

 同級生の照沼芳和君や先輩の郡司勤さんは耳の会の会員だったのです。

 そして、住井すゑの文章に出てくるように、ときには内外の有名無名の食客をも預かっていました。

 身内のことなので、「まねごと」と謙遜しましたが、今でいうSDGsと同じことを先駆けてやっていたのですから、歴史の流れを読むことのできる一門の思想家であり、たぐいまれな実践者だったと思います。


 私が持っている一衛の著作「野性の思考」は彼の姉である沼田早苗先生からいただいたものです。

 私にあずければ、子々孫々まで伝わると思ったのかもしれません。

 しかしながら、わが家は女子2人なので私の代で終わりです。

 もう1冊の一衛の自主出版著作「炉辺談話10年」も大切に保存してあるのですが。

 なお、早苗さんは当時、巴村でただ1人の女子師範学校出でした。

 なおなお、47歳で急死した私の父や、私自身の心臓疾患の体質は本名を無視され、無理やり一男と呼ばれた婿殿から受け継いだものと思われます。


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住井すゑ作品集第8巻 新潮社

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住井すゑ作品集第8巻 373頁 「牛久沼から」より

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住井すゑ作品集第8巻 374・375頁 「牛久沼から」より
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